Two's A Crowd (新たなる離陸)
※カッコ内は邦題
アルバムについて
1977年、EMIを離れアリスタ・レコーズから発売。ラストアルバムである。
3rdの発売直前にスチュワート・トッシュが脱退し、
デヴィッド・ペイトンとイアン・ベアンソンの二人体制で制作された。
プロデューサーはもう一度アラン・パーソンズを起用。
そのため「従来のパイロットサウンド」と言われることが多いようだが、
私はそれに「が、進化した」と付け足したい。
3rdのサウンドからはだいぶ離れたものであるが、
だからといって1st・2ndの雰囲気と全く同じ、というわけでもない。
レビュー中でもさんざん言っているが、優しさや柔らかさ、切なさがより多く感じられるのである。
その後、「マネージメントの問題を解決するためにはそれしかなかった」ということでパイロットは解散。
以降APPやキーツなどでデヴィッドとイアンはちょこちょこと関わりつつも、
パイロットとしての活動は長く沈黙する。
1980年代に再結成の話があったようだが、実現する前にビリーが他界してしまったとのことである。
ところで11曲中5曲と、イアンの曲の比率が高いが、
その全てがパイロットの音楽性に非常に合っていると思う。
「Creeping Round At Midnight」などにしても、「One Good Reason Why」にしてもである。
前作のレビューではイアンの曲が違和感などと書いてしまったが、
本作ではそういったことを全く感じないのである。
やはりプロデュースの違いなんだろうか。
断っておくがロイ・トーマス・ベイカーのプロデュースがダメということではなく。
(※この連は特にCD版のライナーからの引用と書き手の意見が入り混じっている気がする)
さて、このアルバムをCDで聴くからには、
特に私のような日の浅いパイロットファンは、
日本の古くからのパイロットファンの皆様に深く感謝しなければならないだろう。
たまに評を見れば大抵は「名盤」と記されているのに(「いささか地味」という評もあるにはある)
「CD化はほぼ不可能」と言われていたのが不思議だったのだが、
権利問題が大変複雑だったということのようである。大人の世界は難しい。
それが日本のファン、日本のスタッフの執念によりついに2005年にCD化したのだから、
「奇跡は「起こる」じゃなくて「起こす」ものなんだ!」とか熱いセリフが脳裏をよぎる。ありがたや。
でもCD化にこれだけ時間がかからなかったら「Blue Yonder」が生まれなかったのかも、
みたいなプラス思考をすることも可能。
って、後追いの私が言えることじゃないっての。
もっと時間かかって今聴けてなかったら困るだろっての。
個人的な感想ですが、
レビュー中でも何度か言ったように、オーケストラが目立つアルバム。
私はポップにオーケストラを加えることをあまり好まない(という家庭で育った)ので、
ちょっとだけ苦手な部分もあります。
(オーケストラが嫌いってわけじゃないんですが。ポップでオーケストラで大好きな曲ももちろんあります。)
しかしそれを入れても、私はこのアルバムを愛している。
苦手な部分よりも好きな部分の方がずっと多いから。
ボーカルもギターも、何よりメロディーも、その他いろいろ。
何が付け足されていたとしてもパイロットなのだから、嫌いになるわけがない。
それは1stから4thまで全部同じことです。
うーむ、何が言いたかったんでしょうか私は。
苦手な部分もあるけどやっぱりパイロットはパイロットだから好きだよってことでしょうか。
収録曲
・Get Up And Go
1977年7月にシングル発売。B面は「Big Screen Kill」
イントロのギターから、「あ、パイロットだ!」と思う。
やっぱりこのキュートな感じがいい。ところでハンドクラップが復活していて嬉しい。
3rdを経て、1st、2nd以上に柔らかさや優しさが加わったと思うのは私だけだろうか?
なんというか、到達点。
・Library Door
パイロットのはじまりの曲。真剣に聴くと涙なしにはいられない。
やっぱり今までにないくらいの優しさを感じる。
ギターのアルペジオやドラムの角打ち(名称は「リムショット」です。戸村さんありがとうございます!)がいい感じに「雨」を演出。
はあ、この曲をビリーはどう思ったんだろうか。とか思い始めると夜も眠れない。前も言ったかこれ。
・Creeping Round At Midnight (真夜中の徘徊)
ここでちょっと跳ねる雰囲気に。かわいくてちょっとヘン。
ベースの音がかわいい。メロディーもすごくかわいい。あとコーラスとピアノと…
そのピアノが目立つために、これをビリーが弾いたら…とか無益なことを考えてしまいました。おい。
歌詞を見て、なんとなく「Magic」のつづきのような気がした。イアンの曲だけど。
・One Good Reason Why
歌詞が妙なほど悲しい。このころ何かあったんだろうか…でも曲はやっぱり優しくて美しい。
コーラスが出過ぎてないのも柔らかさを感じる一因?
ちょっとオーケストラが強いかなあ。
美しさをより強調しているといえばそうなんだけれど。
・There's A Place
イントロを聴いてちょっとだけ「北緯55度~」を思い出した。リズムが似てるような似てないような?
いや、だいぶこじつけなので今の忘れてください。
このメロディーも優しくて好き。ちょっと耳がくすぐったくなります。
オーケストラアレンジの施されていない曲。その分と言っては何だけれどバンド音がすごくすごく良い。
個人的にはベースを重点的に聴いてしまうのですが。
・The Other Side
寂しさの目立つ曲。ボーカルが伸びやかなので聞き入ってしまう。
オーケストラがわりとリズミカル。
ラストの「On the other side」はなかなかクセになり、頭の中で回りました。
・Monday Tuesday
1977年9月にシングル発売、B面は「Evil Eye」
レコードではここからB面。
「One Good~」と同系統な曲と言えるだろうか。メロディーが美しく切ない。
でも、オーケストラの強さが私の許容値を超えました。
うーん、ここまで強いとちょっと苦手なんだよな…いや、オーケストラアレンジが嫌いなんじゃないんですが。
・Ten Feet Tall
1977年11月にシングルカット、B面は「One Good Reason Why」
うって変わってのキュートかつヘンなサウンド。
ボーカルだけ聴いているとなんとなく3rdに雰囲気が近いようだけど、
コーラスや「Said that~」からのメロディーなどは4thならではの雰囲気。
たまに大声で歌いたくなりませんかこの曲。私はなります。
・Evil Eye (邪悪な瞳)
グロッケンの音が印象的。それに併走するシンセのこの音はアルバム内でよく聞こえるような気がする。
当時のマネージャーに向けて書かれたというこの曲は、
あまり悪意を感じるわけではないんだけど、「あーぁ…」な雰囲気がひたすら切ない。
アウトロのハミングがまた悲痛。
・Mr.Do Or Die
ポップな出だしからのハードなサウンド。ギターのカッティングがものすごくかっこいい。
この曲はビリーに向けて書かれたようだけど、これはけっこう悪意感じるかな…
全体にすごくかっこいいんだけど、複雑な気持ちになります。
ビリー、熱病呼ばわりされてるよ。言い返そうよ。
・Big Screen Kill
イントロのギターのスライドっぷりが好き。
この曲もオーケストラやりすぎじゃないかなと思うんだけど、
歌詞から察するに意図的なものなのかもしれない。
そしてこの歌詞がどうにも皮肉的で。これがラストの曲と思うとどうにもモヤモヤしてしまいます。
最後の最後にちょこっと流れるBGM(形容詞が浮かばなかった)がなんだか寂しい。