A Pilot Project(パイロット・プレイズ・アラン・パーソンズ・プロジェクト)/A Pilot Project

カッコ内は邦題



アルバムについて

2014年7月24日発売、新作レコード(デモ集や再発を除く)としては12年ぶりの新譜。みんなが待ってた。

デヴィッドとイアンのふたりによるアラン・パーソンズ・プロジェクトの楽曲カバー集であり、

2009年に惜しまれつつ亡くなったエリック・ウルフソンに捧げられている。

プロデュースはデヴィッド・ペイトン本人による。


発売日前日、私はテストの教室に行く前にダッシュでディスクユニオンに行きました。

だってフラゲしないとなくなっちゃうと思ったんですよ!

そして手汗びっちょりの震える手でレジに持っていきました。

もう、レシートが捨てられません。


A Pilot Project」は略せば「APP」。

日本盤の帯やライナーなどでは「パイロット」名義になっているが、

ジャケットに記されているのは「A PILOT PROJECT」の文字のみであり、

またiTunesに取り込むとアーティスト名は「A Pilot Project」と表示される。

そして聴いてみると確かにこれはアラン・パーソンズ・プロジェクトともパイロットともつかぬ中間の雰囲気である。

強いて言うなら「パイロットがプログレバンドになるとこうなる」という見本、みたいな?


アラン・パーソンズ・プロジェクトといえば、アホかというほど壮大なオーケストラ。

ア・パイロット・プロジェクトでは、全体にそのような壮大さは抑えられています。

といっても、「ショボくなった」なんてことは一切無し!

オーケストラの派手派手な曲ではアコースティックギターが全面に出て新たな魅力を生み出していたり、

ベースが肉厚になっていたり、間違っても劣化コピーなどではないのです。


またアラン・パーソンズ・プロジェクトといえば、歌手が多種多様なところ。

しかしア・パイロット・プロジェクトではメインボーカルはデヴィッドのみ。

…なのに、なんでしょうこの違和感の無さは!どれもデヴィッドが初めから歌ってたような気がするほど。

それはデヴィッド自身の表現の幅の広さ、そして選曲の妙によるのでしょう。

たとえば「Don't Answer Me」などはデヴィッドの声では想像しづらい…いや聞いてみたいけど…あぁ論点がズレちゃったよ


「ブルー・ヨンダー」のときと同じく、本レビューは元曲と聴き比べながらじわじわじわじわとやりました。

しかし聴いても聴いても聴き足りない!このページで全部言い尽くせているとは全く思えません!

Let's Talk About Me」だけでも30分くらい聴いてたんじゃないかな。

時間がいくらでもつぶれますから、ぜひ交互に交互に聴いてみてください。楽しいですよ。

でもアルバムの流れが美しいから通して聴くのだってもちろん最高!


それから、ア・パイロット・プロジェクトを聴いていると、パイロットのことがまたどんどん好きになるし、

アラン・パーソンズ・プロジェクトのこともどんどん好きになってくるんですよ。


収録曲

Sirius(狼星)

ここから「Children Of The Moon」まで、元曲は1982年のアルバム「アイ・イン・ザ・スカイ」より。

音のみならずこの緊張感までも完全コピーと言っていいレベル…おおおおおお…

ギターソロは元曲に比べさらにオオカミの遠吠えっぽくなっております。泣く。

そしてそしてこの…次の曲に向けてどうしても息が止まるこの感じ……


Eye In The Sky

元曲はエリック・ウルフソンがメインボーカル。

デヴィッドの声、違和感が無い!厚い!深い

でも「〜to know that」のところのちょっとねっとりした感じがカワイイ。

アコースティックギターのアルペジオが少し強くなってますね。ドラムの音も現代的。

そしてイアンのギターソロ!

イアンのギターは枠からははみ出ずに、しかしその枠の中を使い尽くしますね。


Children Of The Moon

元曲はデヴィッドがメインボーカル。APPのデヴィッドの(多分)代名詞!

壮大な感じは抑えられているけれど、だからとて元曲の雰囲気は壊されておらず、

なんでしょう、元曲は月の上にいて、こちらは月全体を外側から静かに眺めてるような。

しかし何より歌おわりの「hiding from the sky」の「sky」が!!!デヴィッドだ!デヴィッドが歌ってるよ!!!!

ここから「双子宮」につながることはないものの、フッと終るところが美しいです。


What Goes Up(万物流転)

元曲は1978年のアルバム「ピラミッド」より、ボーカルはディーン・フォードとデヴィッド・ペイトンでした。

デヴィッドの裏声に胸キュン。

ベースが強くなってアコースティックギターが強くなっています。緩急が激しい!

to visit the site of your dream」からのガクッと落ちる感じがいいですよね。

元曲と違いアウトロがほぼ無く終ります。すっきり。


Can't Take It With You(不思議な物体)

こちらも「ピラミッド」より、ボーカルはディーン・フォードでした。

ギターのニヤけた感じの音が古くさくて好きですよ。

サビのどんぶらこ感も気持ちいいです。ベースとドラムが強まってるのかな。


Breakdown

パッケージもライナーもiTunesの表記さえも「Dancing On A Highwire」なんですが、ここで流れるのはBreakdown。ミス?

それはともかく元曲は1977年のアルバム「アイ・ロボット」より、ボーカルはアラン・クラークでした。

ベースが強くエッジがたっててカッコいい!!ゴリゴリいう!

これもまたアコースティックギターが強いですね。


Dancing On A Highwire(ダンス・オン・ア・ハイ・ワイヤー)

こちらはいかなる表記も「Breakdown」。逆になっちゃってる。ミスなのかな…

元曲は1984年のアルバム「アンモニア・アヴェニュー」より、ボーカルはコリン・ブランストーンでした。

コリンの声とデヴィッドの声、けっこう違うはずなのに合ってるな。高音がいいんですよ

この曲もベースのエッジがきいています。曲全体の雰囲気も少しくっきりした感じになってるような。

で、ギターソロが長い!長いぞ!嬉しい!


Let's Talk About Me

元曲は1985年のアルバム「ヴァルチャー・カルチャー」より、ボーカルはデヴィッドでした。

APPのデヴィッドの(多分)代名詞その2!

イントロ・途中のおしゃべりにもデヴィッドの声が聞えるのが地味にキュンときます。(デヴィッドとカークがしゃべってるんですね)

あぁこの「ガッ!」と入る感じ!

おおむね忠実な再現なれど、デヴィッドのねっとりした声やコーラスの強さなど違いを見つけるのも楽しいです。

変わった部分も変わってない部分も、ぜんぶ好きです。


Prime Time

元曲は「アンモニア・アヴェニュー」より、ボーカルはエリック・ウルフソンでした。

エリックのボーカル曲は今のデヴィッドの声に合いますね。コリンとは逆に低音が染みます。

この曲もまた曲全体が少しくっきりした感じ。

なんだか、長い道を走り抜けながら途中で夕立に遭った、みたいな感じです。分かりにくくてすみません。

これもギターソロかっこいい


Games People Play

元曲は1980年のアルバム「運命の切り札」より、ボーカルはレニー・ザカテクでした。

イントロのシュワシュワがかなり長くなっています。(元曲のシングル版とは比較してないけどそっちはどうなんだろう?)

しかしこれはものすごい再現率。

デヴィッドの声もレニーっぽくワイルドではきはきしてます。フレーズおわりの「イエイ!」がかっこいい!


The Turn Of A Friendly Card Part 1(運命の切り札 パート1)

元曲は「運命の切り札」より、ボーカルはクリス・レインボウでした。

この曲もまた、壮大さが抑えられてアコースティックギターが強くなっています。

turn of a friendly card〜」のユラユラっぷりには鼻血が出そうですね。

短いけどアウトロの再現率がたのしい…そのまま元曲と同じく次の曲へメドレー。


Snake Eyes(神の使い)

前曲からのメドレー。こちらもボーカルはクリス・レインボウでした。

ベースが強くなって、これまた元曲のボーカルとの差もありタイトな印象に。

ややデヴィッドらしからぬ、でもすごくイギリス人らしいイジワルな歌声が、なんだろうカワイイ。

後半のドラムの「スタタタタン」がいいです。


Nothing Left To Lose(失われゆく神々の国)

元曲は「運命の切り札」より、ボーカルはエリック・ウルフソンでした。

なんだかすごくデヴィッドのソロ曲のよう。歌い方やドラムが。

パイロット版聴いたあとで元曲聴くとエリック・ウルフソンの声が違和感なほど…ってのは言い過ぎかもしれないけど

そして突然APPになる!元曲より(良い意味で)裏切られた感がして楽しい!

ギターソロにはカッコいいしか言ってないけどギターソロカッコいい


Old And Wise

元曲は「アイ・イン・ザ・スカイ」より、ボーカルはコリン・ブランストーンでした。

これは元曲とかなり違ってすごい。

何よりこの、出だしの室内らしさ。部屋の中でピアノをぽろぽろ鳴らしているみたい。

それから少しずつ広がっていくけど、「すごすぎて笑っちゃう」ほど広がりはしない。

アラン・パーソンズ・プロジェクトを主に好きな人には物足りないんじゃないかともやや思われるけど、

パイロットのファンにはたぶんたまらない。

デヴィッドは、イアンは、こんな風に歳をとったんだな、としみじみと思われます。



Dancing On A Highwire -unplugged-(ダンス・オン・ア・ハイ・ワイヤー –アンプラグド・ヴァージョン–)

日本盤のみのボーナストラック。

元曲がまたバリバリ80年代の曲なもんだから、

かなーり違う雰囲気でおもしろいです。渋い…しみる…

デヴィッドの声は有機的ですね。薫きしめたらいいにおいがしそうです。

そしてギターソロがアコースティックだというのにキレキレです。



2014年はパイロット結成40周年。

ア・パイロット・プロジェクトを経てパイロットはどうなっていくのか。

とりあえず過去に縛られることは無さそう。

1970年代のパイロットも、2010年代のパイロットも、大好きです。


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