Solo Casting(眠りの精) /William Lyall
※カッコ内は邦題
アルバムについて
1976年秋にEMIより発売、パイロットを脱退したビリー(ウィリアム・ライオール名義)の唯一のソロアルバム。
プロデューサーはロビン・ジェフリー・ケーブル。
参加ミュージシャンやアートワークが大変に豪華なものであることは多分有名。
メロディー、アレンジ、構成などなどどこを切ってもビリーが出てくるステキな一枚。
職人技なPOPが堪能できます。
しかしセールス的には当時は惨敗した模様。時代のせいかもしれないが、納得いかん。
ビリーがパイロットを抜けなければこれらの曲はパイロット名義で世に出たりしたんだろうか…
でも「Reasons」のように長いこと眠っていた曲もあるみたいだから、結構厳しかったのかな。
とか何とか考えてたらなんだか寂しくなってしまいました。
初CD化の際のライナーを読む限り、ビリーの脱退は(周りからすると)いきなりだったようですね。
ツアー、黄色い声援、シングルに選ばれない、麻薬、などの嫌なことが重なって、
そしてマネージャーにそそのかされて脱退。
なんで脱退なのかなあ。パイロットは続けつつソロで発散、みたいな手はなかったのかなあ。なかったのか。ないよな。
ビリーの脱退騒動についてはここで書くには少し複雑すぎるので、この辺で。
あとちょっと個人的な思い入れなど語らせて頂きます。
思えば私とパイロットの出会いはこの一枚かもしれない。変な話だが。
もともとは夏の初めに我が父が(多分)コレクター精神から買ったこのアルバム。
家にこれが来た頃はまだ私はほとんどパイロットを知らなかった。メンバーの名前すら知らなかったかも。
で、ある日おもむろに、本当におもむろに、このCD(MSI盤)の英ライナーを訳してみようと思ったのでした。
夏休みのどの宿題よりも面白そうだったので。
そして訳してみたら面白いことや悲しいことやをいろいろ知って、(ビリーが故人であることをこのとき知った)
それからパイロットに興味が向かないわけはなく、はまる決意をした私は16歳の7月でした。
まあそれより前から1stだけちょこちょこと聴いたりしてたから遅かれ早かれ他アルバムにも手は出していただろうけど。
とにかく、それから1ヶ月も経たないうちに、私は家族にも引かれるほどのファンになりましたとさ。めでたしめでたし。
ちなみに訳してからCDそのものを聴くまでにはちょっと間があった。なんでだ。
パイロットのオリジナルアルバムをひととおり聴いてから聴いたのですが、
「ソロ・キャスティング」のシンセのフワフワ言う音にノックアウトされ、そのままビリー熱を発症。
パイロットを聴く際にもビリーのおもかげばかり探すようになっています。って、そういえば2ndのときも同じこと書きましたね。
収録曲
・Solo Casting
1976年秋(月までは分かりませんでした)に、アルバムと同時にシングルも発売。B面は「Maniac」
ちょっとしたピアノソロ、そして「Okey,」の声から始まって、
シンセのもにょもにょする音、駆け上がるギター、そこにさらにふわりとシンセが重なり、
イントロから既に目くるめく世界が広がります。シンセの音がことごとくかわいいな…
メロディーも飛んで跳ねてて楽しい!
後半で一旦笑っちゃうくらい大げさな曲調に変わるけど、そこがいい。
・Us (夢みる二人)
こちらも1976年秋頃にシングルカット。B面は同じく「Maniac」
リズミカルなオーケストラとコーラスにギターが絡まる、雲を突き抜けるような曲調。
リードギターは我らがデヴィッド。そういえば「Lead guitar:David Paton」っていうクレジットは初めて見た。
曲も詞もアレンジも、日常の嫌なこと全てを好きになれそうな気持ちになります。抽象的ですみません。
「万華鏡」とか「玉手箱」とかそういった言葉がしっくりきます。
「when the cold~」のくだりの歌い方が妙に優しくて照れる。もう、愛してるよ!!
・Playing In The Sand (南の浜辺)
ビリーに海はあんまり似合わないなー。海行ってもTシャツ脱いだりしなそうじゃありませんか?
行っても浜辺で休んだりしてそうだなーってそうだ浜辺で休んでる歌だった。そんなことはどうでもいいんだ。
この曲もまた歌い方が妙に優しくて溶ける。
ほかコーラスもシンセもフルートも、耳がくすぐったくなります。
そういえばこんなにフルートとシンセを同時に味わえるような曲って他に無いかも。
カッ飛ぶようなPOPではないけどボサノバ調でステキな小品。
・Supertrader
「Us」と同系統な感じ、だけどこっちの方がさらにバカ騒ぎ感が強め?
出てくる音をそれぞれ追いかけて聴くのも全体を聴くのも楽しい。
いろんな音が一気に飛んできていて、散漫なのに散漫じゃなくてそこがいい、みたいな。
ギターソロが異常にかっこいいけど案の定イアン。嬉しいことを。
それから歌詞の韻の踏み方も半端無い。楽しい。
個人的にはこの曲をA面のハイライトと言いたい。
・Reasons (恋に魅せられて)
曲自体は72年の時点で既にデモ録りされていたらしい。パイロットで正式にやる手はなかったんでしょうか…
「Passion Piece」の続き的、ピアノがおどるシンプルでアホかわいい曲。(少なくとも最初は)
かわいくてとぼけてて、そして後半のオーケストラは超こってり。
ビリーだなあ。つくづく。それでニヤニヤしてしまいます。
そしてドラムがいい感じ。フィルだなあ。
・The Deeper You Get (恋の深み)
レコードではここからB面。
横揺れにたゆたう曲。今さらなことを言うけれど、ビリーのラブソングは静かに熱くて聴いてて照れるな…
このアウトロの息づかい、お前は女性ファンをどうさせたいんだよ。
ところで以前書いたとおり、私はポップにオーケストラを施すのは苦手な場合が多いんだけど、
このアルバムに関しては全くそういうことが無い。むしろそこが好きです。
・Maniac
シングル二枚のB面をつとめている曲。自信作なのかな。
パイロット版と聞き比べると楽しいような悲しいような。
パイロットの縦ノリなアレンジに対して、こっちは横揺れなアレンジ。コーラスが強め。
やはりバンドサウンドかオーケストラサウンドかが大きいのか。
ネットで評を見ているとこのビリー版の方が「クイーンっぽい」と言われたりしていて変な感じです。
横揺れ、といえどもメロディーは目まぐるしくガンガンくる。
どうでもいいけど「starry skies」の、ひょいっと上がる感じの歌い方がビリーらしくて好き。
・Don't Be Silly (愚かなビリー)
「明らかにパイロットにあててる曲」だけど、それをデヴィッドとイアンにやらせるビリーよ。
そしてしっかりこなすデヴィッドとイアンよ。特にイアンのギターソロはめちゃくちゃカッコイイ。あ、でもスチュアートは叩いてないんだ。
ビリーのシンセもいつになく尖ってるような気もする。
そんな曲だけど、不穏ながらもどこかコミカルで不思議な雰囲気に包まれていて、
どうにも不真面目な気分にされたりして複雑な気持ちになります。
そしてのちにデヴィッドは「Mr.Do Or Die」という曲をあてるわけで。ケンカか。
でも「Mr~」に返歌が無いために中途半端なところでケンカ終了。悲しい。
・Take Me Up
これまたクドい(感動的ともいう)オーケストラアレンジの施された曲。
ボーカルもいつになく朗々としています。
この曲だけドラムがスチュアート。ほんのちょっとだけ見せ場もある。
途中でいきなり曲調変化。ベースがややディスコっぽくてかっこいい。
2部構成的な曲がアルバム通して多いけど、その辺はクラシックからの影響?
・Sleep (眠りの精)
国内盤ではアルバムタイトルにもなったインストゥルメンタル。
特に各部にタイトルがあるわけでもなく区切れもないけど、立派な組曲。紛れもなくB面のハイライトです。
ビリーの天才ぶりがよく分かる、かわいさと不思議さの同居。
なるほど確かにステキな夢を見ているようです。
自己満足だけど勝手に部を分けてみた。
1、眠りに落ちる。ピアノからシタール、木管楽器が重なっていって夢になっていく。
2、夢のはじまり。オーケストラが重なっていって深く深くへ。
3、夢のなか。この部分がテーマ?バスドラの音がなんとなく心臓音を思わせる。
4、ARPソロ。これがいいんだよなぁ。ぽやーっとしてて。
5、「Us」の「when the cold~」の部分。最初アレンジが違いすぎて気づかなかった。
6、つなぎ。ハープシコードと木管が絡み合ってかわいい。
7、ちょっと変化。大きくて柔らかいものが当たってくる感じ?うまく言えなくてすみません。数度くる「ぱーん!」って音です。
8、クライマックス。3がさらに発展した感じ。
9、夢のおわり。サッと覚めるんじゃなくて、だんだん覚めていって枕のなかで夢と現実が混ざったもやもやした所で終わっている感じ。
ついでに、9の最後ではフルート(シンセ?)のみでの「The Deeper~」がちょっと聞こえます。
細かく分けすぎたかな…