Blue Yonder (ブルー・ヨンダー)
アルバムについて
2002年にJAKより発売、再結成盤である。
プロデュースは本人たちによる。
1977年の前作「Two's A Crowd」があまりにもCD化されないために制作されたという。
そのため11曲中8曲は前作のリメイクである。(残りの3曲は「やってはみたもののどうにもしっくりこなかった」ということのようである)
日本盤ライナーの中のインタビューの「僕らは、なぜ、バンド活動を停止したんだ!?」というイアンの言葉や、
裏ジャケの「the Magic is back.」の文字が嬉しい。
本レビューは「Two's~」と「Blue~」を一曲ごとに換えて聞き比べるという七面倒くさい(でも楽しかった。)方法をとってみた。
一曲目の「Get Up~」を聴いた時にはあまりの変わらなさ(良い意味で)に驚いたものだけど、
他の曲は、前作よりも優しさや柔らかさが強くなっていると思う。もともとパイロット史上最高に柔らかいサウンドのアルバムだったはずだが。
優しかった曲はより優しく、元気だった曲は芯が強いままに肩の力だけ抜けて。
簡単に言えば「おじさんになった」のだと思う。
もちろんそれは大変良い意味でのおじさんである。
おじさんになったことのマイナスイメージがほぼない。
世の中にはおじさんにならない人や、おじさんになることをとことん拒む人もいるし、まあそういう人だって私は好きだが、
パイロットは「楽しいおじさん」になることを受け入れているような、そういう気がする。
そして、なんともステキなことだなあと思うのだ。
イギリスのおじさんの良いところがたっぷりと詰め込まれたアルバム。
これだからパイロットが大好きだ。
収録曲
・Get Up And Go
この曲は特に、前作との違いが認められない。オーケストラが入っていないくらいか。
完全に前作と同じなわけはないんだけど、どこが違うかと聞かれたら答えられない。
衰えていない。何もかもが「Pilot」そのもの。
終わり方がサビのフェードアウトでなくギターソロのフェードアウトに変わっているが、
そのギターソロもまた「これだ!」という音、フレーズ。
・Library Door
前作でのイントロのリコーダーが、消え入りそうなシンセ音に代わっていて涙を誘う。
歌声がさらに優しく丁寧に、ひとうひとつを噛みしめるように感じる。
なんだか本作は、当時を思い出しているように聞こえてならない。
前作の情景は図書館の扉の前、本作は家の中で雨音を聞きながら、のような。妄想ですが。
・Creeping Round At Midnight
ドラムにエコーがかかっているのとベースにエフェクトがかかっていないのとで少し優しいかつ骨太な印象に。
歌声から肩の力が抜けたような気がする。
すごく楽しそうで、聴いててしあわせ。
ピアノソロはギターソロに代わっている。初めて聴くフレーズの気がしない。やっぱり「これだ!」と思う。半音カッコイイ。
・One Good Reason Why
こちらもエコーがかかってより優しい雰囲気に。
歌声やギターなどもより柔らかくなっている気がする。
オーケストラアレンジが無くなった代わりに、アウトロなどはコーラスが厚くなっている。
個人的にはギターソロ前の、あのホーンの高まりがなくなっているところにほっとしています。あの部分苦手でした。告白。
・There's A Place
ベースにエフェクトがかかっていないせいか、心なしか骨太な感じ。
バックコーラスのかわいい声はデヴィッドの娘さん・サラさんとイアンの現奥さん・レイラさんだそうだ。
低めの歌声に、なんというか、深みが増したとでも言おうか。照れるほどカッコイイ。
アウトロのギターソロが長くなって、フェードアウトでなくなっている。堪能できます。
・I Wonder
新曲その1。
おじさんになったんだなあと思う。とびきり良いおじさんに。若々しいわけではないけど、枯れていない。
って、初めにも書きましたが。
どこまでも優しくて柔らかくて飛びそう。(?)
ギターソロ前などの、このそこはかとなく不思議な雰囲気が好き。深く迷い込んでいくような感じ。
・Monday Tuesday
この曲もオーケストラが印象的な曲であったが、抜きになっても印象が薄くなったりしていない。
変わらず美しく優しいメロディーの曲です。
もともと優しさの極致のような歌だったのが、さらに優しく。どこまで行くの。
なんだかレビュー全体的に「優しい」連呼しててすみません。
・Ten Feet Tall
キーが下がったせいもあってか、ボーカルが異常にカッコイイ。
前作の鼻息が荒い感じに比べ、やはり肩の力が抜けた気がする。
この曲も歌声がすごく楽しそう。
間奏が延びてギターソロがちょっと長いところにも注目。
・Evil Eye
全体にエコーがかかり、この曲もまた心なしか骨太。そのエコーがやりすぎていなくて良い。
ボーカルもなんとなく強められているような気がする。
ギターソロはアコギに。これはこれでカッコイイ。
と思ったらエレキのソロもありました。一度で二度おいしい!
アウトロが長いのでそのエレキのソロはじっくり味わえました。縦横無尽。
・When The Sun Comes
新曲その2。
なかなかに若々しい雰囲気。そして「イギリスだ!」と叫ばずにはいられません。(心の中で)
メロディーやリズムや展開の少しひねくれたポップさがたまらない。かっこいい。大好き。
「I Wonder」にひきつづいてこんなの聴かされちゃもう今後へのワクワクは高まるしかない!
・Lovely Lady Smile
日本盤のみのボーナストラック。そして1st収録曲のリメイク。味わって聴きます。
とりあえず、結婚30周年を迎えても奥さんを「Little Girl」と呼べるココロが素晴らしいと思います。
楽曲はよりしっとりとロマンチックになった感じ。フルートソロはアコギソロになってます。
ボーカルにちょっとしたタメが多い。渋い。これが大人の余裕か。30年の重みか。
ドラムは打ち込みなのか、そこだけちょっと違和感といえば違和感なのですが…
・Hold Me
1975年の貴重なライブテイク。ファンキーな一品。
ギターかっこいい!シンセかっこいい!ドラムかっこいい!ベースかっこいい!
全員タイトでソリッドで何だろうもう。かっこいいしか出てこない。
間奏でだんだんに熱を帯びてくるのを聴いていると、なんだか何かがはち切れそうな気分になる。たまらない。
ところでこのバックコーラス、ビリーでもイアンでもない?ということはスチュワート?
こんな聴けば聴くほどに手練れでキレのあるドラム叩きながらあんた!
何度でも言おう、パイロットかっこいい!!
来年2012年は「Blue Yonder」から10年。
パイロットの次なるフライトは果たしてどこになるのだろう。
どこであってもステキな場所には違いない。
みんなを連れて行ってくれる日を心待ちにしております。